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子宮外妊娠 その2 ~確定診断編~

2021/10/24
日記

前回のブログはこちらから。
今回は『子宮外妊娠 その2 ~確定診断編~』です。

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2021年9月7日(火)
前回の検査結果を聞くため、そして二度目の採血のために受診。
検査の結果、血中のhCG値は670で、現在も妊娠は続いているようだ。
ちなみにこの2日前に、猛烈な腹痛と大量の鮮血があった。
それを医師に伝えると、「もしかしたらそれが流産だった可能性はあるが、まだ断定はできない」とのこと。
二度目の採血をして、この日は帰宅。

2021年9月9日(木)
血中のhCG値がゼロになってること、数日前の腹痛と出血が流産であったことを祈りつつ、5回目の受診日。
みんなが望まない流産を望むことに若干の後ろめたさを感じつつも、それでもわたしはそうせざるを得ない。
検査の結果、血中のhCG値は760で微妙に上昇していた。
めちゃくちゃビミョ~~~~~~である。
わたしのhGC値は習い事を始め立てて基礎練習を頑張っている最中なのか?!と問い詰めたくなる。
医師によると、この微妙な上昇が子宮外妊娠を示唆しているらしい。
9月4日の数値が670、9月7日の数値が760となると、流産していなければ今日の数値はさらに上昇している可能性が高い。

子宮外妊娠は、放置しておくのはとても危険である。
通常妊娠は子宮内で行われ、胎児の成長とともに子宮も大きくなっていく。
しかし、子宮外の別の臓器で胎児が成長してしまうと、それに耐えきれずにその部位が破裂し、大量出血の恐れも。下手すれば危険な状態に陥るのだ。
死にたくねぇ。生きてぇ。

「紹介状を書くので、今すぐ大きな病院に行ってください」
しばらく通っていたこのクリニックでは設備の関係で血中のhCG値の結果が出るのが翌日以降のため、1~2時間で検査結果が出る病院を受診することに。
会計を済ませ、クリニックをあとにしようとすると、背後から看護師の「絶対走っちゃだめよ! あと転ばないようにね! ゆっくり急いで!」と難しい注文が聞こえてきた。
さすがに走らねぇよ。わたしにどういうイメージを抱いているんだ。

紹介された病院で、問診とエコー検査を受ける。
過去2回の検査でわかった血中hCG値の比較、そしてエコー検査で右の卵管に若干影が映っていることから、ほぼ100%子宮外妊娠であることが告げられた。
とりあえず、ほっとした。
約1か月もの間続いていた不正出血。その理由が今はっきりとわかったのだ。
「あぁ、ようやく正しい治療ができる」と純粋にうれしかった。

卵管における子宮外妊娠で推奨されている治療方法は、手術による卵管の切除である。
基本的に、女性の体では毎月排卵が起きる。卵子は左右どちらか一方の卵巣から排出され、卵管はその通り道になるのだが、わたしの場合右の卵管を切除することで左の卵管からしか排卵ができないことになる。
要するに、自然妊娠できる確率が下がるのだ。
ちなみに子宮外妊娠でも自然と流産することはあるらしく、そうなれば卵管を切除する必要はなくなるため、自然妊娠できる確率は下がらない。
即刻手術をするか、それとも経過観察をするか。
いや、どんな博打だよ。
まあ、数値が上昇していれば、わたしの意志など関係なく否が応でも即刻手術になるらしいのだけれど。
どちらにせよ、今回の血液検査の結果次第だ。

相変わらずルートの取りにくい細い血管で看護師さんたちを苦労させつつも、なんとか採血を済ませた。
検査結果が出るのは1時間半後。待合室に座っていても、手持無沙汰である。
そうだ、一応夫に連絡をしておこう。
受付の女性に「ちょっと外に出てもいいですか?」と声を掛けると、「少々お待ちください、一応看護師に確認しますので」と返された。
え? 病院の前で電話をかけるだけなのに? そんなに大袈裟なこと?
そう思っていると、必死の形相の看護師が大慌てで飛んできて、「どういうこと?! なんで外出るの?!」と詰め寄られた。
「いや、ちょっと電話をしようと……院内は通話禁止だし……」
「なるほど、そういうことね……よかった……なんだか今にも全力疾走しそうな風貌だったから……」
だからわたしをなんだと思っているんだよ。

午後の診察が始まり、検査の結果が出た。
午前中に測った血中のhGC値は910。またしても微々たる上昇である。
数値を聞き、「あ、これはこのまま入院だな」と覚悟した。
「うーん、別に大丈夫じゃない? 大した数値じゃないでしょ。手術も週明けでもよくない? 3~4日は様子見てもいいと思うけど」
そう思いがけない方針を示した医師は、午前中に診察してくれた医師とは別の医師である。
「いやでも、午前中の先生にはこのまま入院してもいいって言われたんですが……」と言ってみるも、「そのやりとりは知らないよ。僕は大丈夫だと思うけどなー。まあ気になるなら一応入院の準備して明日の朝イチで受診して。そんで午前中の先生と相談してどうするか決めなよ」と一刀両断。
オイ!!! もっとわたしに!!! 寄り添いやがれ!!! ホスピタリティがゼロかよ!!! と怒鳴り散らしてやろうかとも思ったが、ここは産婦人科。
診察室の外にはストレスが大敵の妊婦さんや生まれたばかりでふにゃふにゃの赤ちゃんがたくさんいる。
みんなに、ストレスを与えたくない……!
グッと堪え、白目を剥きながら「ハァ、そっすか。じゃあそうしますわ」と言うだけに留め、病院をあとにした。

子宮外妊娠。卵管切除。緊急入院。緊急手術。
たった一日でずいぶんインパクトのあるワードばかりを耳にした。
もしかしたらホスピタリティ皆無ドクターの言う通り経過観察になるかもしれないが、わたしの野生の勘は朝イチで緊急入院&緊急手術をキメるだろうと予想している。
入院準備のための買い物、仕事を休ませてもらうために職場に電話、原稿の〆切を延ばしてくださいと懇願するメール、入院用の荷造り……明日の朝までにやらなくてはいけないことは盛りだくさんだ。
しかし、何よりも優先してやるべきことがわたしにはある。

寿司だ。寿司を食べなくては。
全てのやるべきことをひとまず後回しにして、わたしはその足で寿司屋に駆け込んだ。
なぜなら、翌日9月10日は、わたしの31歳の誕生日である。
もともと誕生日には寿司をたらふく食べてやると、ずっと前から決めていたのだ。
子宮外妊娠だろうが、入院だろうが、手術だろうが、卵管を失おうが、誕生日というめでたい日には違いないのだから寿司は絶対に食べたい。
誕生日に寿司を食べることは権利ではない、義務だ。
新鮮なネタの数々に舌鼓を打ちながら、「手術を控えていても寿司はやっぱりウマイな!」と感動した。

入院のための買い物を済ませ、職場と担当編集に連絡をして事情を説明する。
迷惑をかけたにもかかわらず、しばらく休むことを快く了承してくれた。
体調に関してはもちろん、精神面を慮ってくれる人ばかりでありがたいことこのうえないのだが、迷惑をかけたこと以外にも少しだけ申し訳なさが残る。
みんな心配してくれてるのにごめん……わたしさっき駆け込みで寿司をお腹いっぱい食べてきちゃうくらい元気なんだ……。

実家と義理の実家に電話をする。
母も義母も「え? 手術!? どういうこと?!」と驚いてはいたが、詳しい説明をするとすんなり理解してくれた。
話を遮らず最後まで聞いてくれ、先回りで過剰な心配をしたり悲観的になったりすることもなく、事実だけを受け入れてくれるのはとても楽チンでありがたい。

母に「まあ、しゃーないよね。原因わかってよかったしょ。妊娠云々より、自分が生きていることが一番大事だからね」と言われ、ほんとうにその通りだなと思う。
だって、これは仕方のないことだから。
子宮外妊娠は原因不明で、わたしが悪いわけではない。
ただ単純に運が悪かっただけである。
むしろ不正出血の理由がはっきりとわかってスッキリすらしているのだ。
なにより、わたしが生きていることが一番大事だ。

義母に「声聞いたら落ち着いてるし元気そうで安心した。あなたなら大丈夫そうね」と言われたときも、まったくもってその通りだと思った。
わたしは落ち着いているし、とても元気で、絶対に大丈夫なのだ。
今回のことでハナから自分を責めるつもりはないし、何も悲観していない。今後の不安はひとつもない。
落ち込んでも、子宮外妊娠である現実はひとつも変わらないのだから。
わたしにできることは、ただ事実を受け入れ、できるだけ快適な入院生活になるようしっかりと準備をするだけである。

仕事から帰宅した夫に、診断内容、現在の体調、子宮外妊娠の症状と今後起こり得るリスク、明日そのまま入院になるかもしれないこと、手術をして右の卵管を切除するかもしれないこと、そうなると自然妊娠の確率が下がることなど、詳しく説明した。
そして、わたしは不正出血の原因がわかってスッキリしていること、現時点で一切の不安はなく落ち込んでもいないこと、もし右の卵管を失うことになっても何も気にしていないこと、だから過剰な心配は不要であること、ただ無事に全てが終わったら「頑張ったね」と褒めてほしいこと、わたしがいない間は入院費と手術費のためにガンガン仕事を頑張ってほしいこと、その他して欲しいことがあれば適宜言葉にして伝えるつもりだということ、明日の診察時には様々なメリットとデメリットを比較して最善の選択をするつもりであること、わたしが生きていることと夫と生きていくことが一番大事にすべきだと思っていること、駆け込みで食べたお寿司がとてもおいしかったことを伝えた。

「なるほど、わかった」
「わかってくれてよかった」
「お寿司おいしかった?」
「おいしかった!」
「よかったねぇ」
「ねぇ、もし誕生日に入院と手術になったらちょっとウケない?」
「忘れられない誕生日になりそうだね」
そんなやりとりをしてから、いつも通り眠りについた。

2021年9月10日(金)
さすがに不安で眠れないのでは……?と思っていたのだが、自分でもびっくりするほどぐっすり眠れた。
わたしのガサツさもここまでくれば立派だろう。

言われた通り朝イチで受付を済ませ、診察を受ける。
この日、医師から改めて説明された内容はこうだ。

hCG値の上昇が微々たるもので、非常に判断が難しいとのこと。
このまま入院して手術をしてもいい。ただ、そうなれば右の卵管は確実に失われ、自然妊娠の確率が下がることは必須。
もし手術をするのであれば、本日の夕方に緊急手術の運びとなる。
その場合、腹部を小さく三カ所切るだけで済む腹腔鏡手術を選択できる。
でも、このまま流産する可能性はゼロではない。運よく流産となれば、右の卵管は残せる。
だから週明けまで様子を見るという選択肢もある。
しかし、万が一でも卵管が破裂すれば、非常に危険であること。
さらに今日は金曜日のため、もし土日に卵管が破裂すればそれこそ緊急中の緊急手術になり、腹腔鏡手術ではなく腹をザックリ切る開腹手術しかできない。
腹腔鏡手術に比べ、開腹手術は回復も遅く癒着のリスクも高い。

えぇ~~~~~?!? 何この究極の選択~~~~!!!
めちゃくちゃ悩ませてくるじゃん?
やだ! なに? わたしのこと試してるってワケ?

すべての説明を聞き終え、少し悩んだあと、医師にこう伝えた。
「はっきりしない状況ってあんまり好きじゃないんで、さっさと切って取っちゃってください」

こうして31歳の誕生日に緊急入院&緊急手術が決まり、わたしの忘れられない一日が始まった。

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