大和書房WEB『今日もふたり、スキップで』第9話、AM連載『命に過ぎたる愛なし』第56回が公開されました。

失恋に一番効くのは

日記

3月上旬、男友達からお茶の誘いがきた。
「失恋した、話を聞いてほしい」

友達が失恋したときの定番といえば、雑多な赤提灯の居酒屋で、エイヒレや枝豆、たこわさをチマチマ食べながらハイボールを飲み、へべれけになった状態で「好きだったんだよ〜〜〜」「なんで俺じゃだめなんだよ〜〜〜」とくだを巻き続けるのを聞き、「まあまあ、女なんて星の数ほどいるんだから、泣くなって」と慰め、財布も出せないほど酔いつぶれた相手の代わりに会計を出してやり、店を出たあとはそいつを肩に担いでタクシーに押し込み、翌日の「昨日はごめん…途中から記憶ないわ…」と謝罪の連絡がくるまでがセット、そんなイメージがある。
しかし、この男友達は酒も飲まなければ煙草も吸わない、なんともまあ真面目かつ几帳面で、昔から理性の塊のような人間なので、とんでもなくつらい失恋をしたとしても、くるのは酒の誘いではなくお茶の誘いである。

友達の一大事ともなれば、重い腰を上げて一肌脱いでやるのが友情というやつなのかもしれない。
しかし、そのときわたしはNintendo Switch「あつまれ!どうぶつの森」の発売を控えていた。
男友達と直近で予定が合うのは、あつまれ!どうぶつの森(あつ森)の発売当日である。
わたしは、あつ森のために仕事を前倒しで納品し、夫にも「あつ森が発売してから数日間はそれしかやらないから、わたしは存在しないものと思って生活して」と伝えていたほど、それはそれは楽しみにしていたので、いくら大事な友達が失恋してつらかろうが、こればかりはどうしても譲れない。

「ごめん、無理だわ」
「なんか予定あんの…?」
「その日、あつまれ!どうぶつの森ってゲームの発売日なんだよね」
「ゲーム…?」
「わたし、この日のためにこれまで生きてきたから」
「それなら仕方ないね…」
「そう、仕方ないんだよ」
「まあ、暇になったら教えて…」

というやりとりがあったのを、今日掛け布団をベランダに干していたら、突然思い出した。
あつ森が楽しすぎて、すっかり忘れていた。
会って話を聞いてやりたい気持ちがあるが、現在自粛生活真っ只中。
街に出てお茶をしながら話を聞いてやるわけにはいかない。
2ヶ月の間に、情勢はかなり変わってしまった。

一応申し訳ない気持ちもあったので、男友達に連絡をした。
「ごめん、あつ森に心血を注いでいる間に、失恋話を聞きそびれてしまった」
「いいよもう…とっくに立ち直ったよ…」
「ウケる、最近なにしてんの?」
「暇だから筋トレしてる」
「いいじゃんいいじゃん、ついでに肉も食べな」
そう言って、簡単につくれるローストビーフのレシピを送ってやった。

日にち薬と、筋トレと、でかい肉。
失恋には、この3つがなによりも効く。