大和書房WEB『今日もふたり、スキップで』第9話、AM連載『命に過ぎたる愛なし』第56回が公開されました。

生きていたんだね

日記

自宅から一駅先の街を散歩していたら、昔付き合っていた男性とすれ違った。
向こうはわたしに気づいていなかったが、マスクからわずかに見える顔の上半分と、体型、歩き方から、わたしはすぐにわかった。

それなりにひどい振られ方をされたし、別れたばかりの頃は「一生恨んでやる、孤独なまま長生きをしろ!」とまで思っていたが、別れて6年も経てば、「あぁ、生きてたんだ」という感想にしかならなかった。
別に恨みも、憎しみもない。
やっぱり好きだなぁなんて気持ちは一切ない。
懐かしさすら、感じない。
わたしはこんなに幸せになったんだぞ!と言ってやりたくもならない。
「生きててよかった」「まだ生きてたのかよ」という、なんらかの気持ちが伴うわけでもない。
ただ純粋に「ああ、生きてたんだ」という事実に基づいた感想だけ。

夜ごはんを食べ終えたあと、夫と散歩に出かけた。
深夜の散歩は、この自粛生活が始まるずっと前から、わたしたちの趣味だ。
特に行くあてもなく、どこかに立ち寄るなんてこともせず、ただひたすら歩き続ける。
雨が降ったり、足が痛くなったら、引き返して家に帰るだけ。
歩きながら、目についたものについて話す。
それは、家のつくりだったり、店構えだったり、そこに住む人の生活の想像だったり、自分の子供の頃の思い出と照らし合わせたり、もしも〜だったらという妄想だったり。

ふと、夫の過去の恋愛の話になった。
そして、わたしも過去の恋愛の話をし、今日昔付き合っていた人と偶然すれ違ったことも話した。

人生には流れがあり、自分の意志だけではどうにもならないことがたくさんある。
それが結果的に不幸なのか、幸せなのかという話とはまた別で、「なるべくしてなった」という結果だけが存在するということ。
わたしたちは、それを自然と受け入れながら、生活している。

家に帰り、夫と一杯だけワインを飲んだ。
明日は早起きしたいね。